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『週刊読書人』連載のコミック批評〜2002年2月

百年前のバーチャルリアリティ
『Little Nemo 1905 - 1914』Winsor McCay作・画

 複数のコマや吹き出しなどを特徴とする現代風の「マンガ」は、19世紀末にアメリカの新聞にて誕生したと言われる。その直後、北沢楽天などのパイオニアによって、その形式は日本に輸入されたが、日本の新聞マンガは(一コマ風刺漫画を別として)結局「四コママンガ」に留まり、戦後のストーリーマンガなんかと比べると地味なもんだ。ところで本場アメリカでは、新聞マンガは凄まじい発展を見せた。戦前のアメリカでは、新聞が売れたのはマンガのおかげだった。

 その時代のアメリカの新聞マンガを代表するのは、ウィンザー・マッケイの「リトル・ニモ」である。その傑作を集めたこの一冊本は31×24cmと本としては大きいが、実際に新聞に載った原作は、日曜版のカラーマンガ特集の一頁全体、約50×35cmを占めていた。その広い空間にマッケイは驚異的なデッサン力と想像力を活かして、シュールで精密なバーチャルリアリティを創りあげた。話の中心は四、五歳の男の子が見る夢で、決まって最後の小さなコマでその子が目を覚ます。続き物ではあるが、話の方はどうでもよくて、とにかく毎週毎週マッケイが描く「目のご馳走」がこの作品の魅力であった。

 ラジオさえまだ普及していなかった当時の人々にとって、日曜版のカラーマンガ特集は最高のエンターテインメントだった。子供たちは大人が起きるより先に新聞を取りに行って、暖炉の前に寝転がりマンガ特集を広げて、何十分もかけ一頁一頁を食い入るように眺めた。そして親が起きてきて「新聞は大人が読むもんだよ」とか言って、子供にしぶしぶと譲ってもらったら、一応一面の見出しに目を通してから真っ先読むのはやはりマンガ。毎日多種多様のメディアから大量の情報を「広く浅く」浴びる現代人には、一つの媒体を「狭く深く」味わうこの「リトル・ニモ」などの昔の新聞マンガの楽しみが分かるのだろうか。

 この本は英語のままだが、文字なんか読まなくてもよい。(現に当時の「読者」には字が読めない人がたくさんいた。)amazon.co.jpで簡単に取り寄せられるこの貴重な一冊を買って、百年前のバーチャルリアリティを大いに楽しんでほしい。

(マット・ソーン=京都精華大学マンガ学科准教授)


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マット・ソーン ()
文化人類学者
京都精華大学マンガ学科准教授