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フランスの著名なマンガ家エンキ・ビラル氏が一年ほど前に京都精華大学にいらしてマンガ学科の学生と雑談して下さったとき、ビラル氏はある学生にこう聞かれた。「日本のマンガはどうですか。」ビラル氏は少し困った様子だった。しばらく考えてから、ビラル氏は「大友克洋はうまいと思う」と、答えにならないような答えを出した。量より質を重視するヨーロッパのマンガ家にとっては、大量生産という前提に基づいて作られる日本のマンガの良さは分かりにくいであろう。逆に言うと、一日最低三頁を描けなかったらとてもやっていけない日本のマンガ家からすれば、一頁を描くのに三日もかかるビラル氏のペースは驚異的であろう。 ビラル氏は数年前に、墨汁による線画という伝統的なマンガの技法を捨てたらしい。今では氏は鉛筆の下描きを拡大コピーし、パステル、木炭、アクリルなどさまざまなを材料を直接コピー紙に塗ると言う。さらに、一コマ一コマを一枚の絵として描き、それをコンピュータにスキャンしてからコンピュータの中でコマ割りを行ないフキダシを入れたりするらしい。 一九五一年生まれのビラル氏が今まで描いた作品を合わせても、多分千頁にも至らないだろう。氏はきっと出すペースをあげようと思わないだろうし、読者も上げてほしいと思わないだろう。フランス人は日本人のように日常的にマンガを「消費」するのではなく、ゆっくりしたペースで出てくるものをじっくりと味わって、何度も読み返してはしっかりと「消化」していく。 SFノワールとでもいうべき『モンスターの眠り』のほかに『ニコポル三部作』の和訳も同社から出ている。貴田奈津子氏による翻訳はとても自然で読みやすい日本語になっている。美しく恐ろしいビラルの世界を紹介してくれる貴重な日本語版である。ぜひビラル氏のほかの作品も出してほしいが、慌てない慌てない。まずはこの一冊をじっくりと消化しよう。 |