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『週刊読書人』連載のコミック批評〜2002年8月

オーソドックスな最先端
矢沢あい『Paradise Kiss』

Image from Paradise Kiss 先月に続いて「励ましになる少女マンガ」をもう一つ紹介しよう。『Zipper』というファッション雑誌に連載されているもので、「少女マンガ」の範疇に入れてしまっていいか疑問だが、内容的には敢えて「少女マンガの鏡だ!」と断言させてもらいたい。ところがパッと見ただけで「こんなマンガ見たことない」という人は少なくないだろう。そこが「少女マンガの鏡」だ。

 矢沢氏は何年マンガを描いていても、固まらず常に成長している。ほとんどの漫画家は一度絵柄が決まったらなかなか変わらないものだが、矢沢氏は数年置きに絵柄を大胆に変えてしまう。それができるのは「センス」があるからだろう。少女マンガに不可欠な要素は「恋愛」と「美」とか読者が共感できる「何か」。そういった少女マンガは、忘れられてしまうものとなるか忘れられないものとなるかは作者の「センス」次第だと思う。矢沢氏は少女マンガの不可欠な要素を大切にしながら、群を抜いたセンスで『天使なんかじゃない』や『ご近所物語』など忘れられない作品を次々と描いて来た。

 『パラキス』と別に今『Cookie』に連載中の『NANA』という作品も描いておられるが、前者が「ファッション」で後者が「ロック」という、いわば少女マンガの王道の材料を取り上げている。下手に取り上げるとかなり臭い作品になりかねないが、矢沢氏の手にかかるとこれがウマい。そのデザイン的な絵と極端に美化された設定だけなら「綺麗」で終わってしまうが、魅力的なキャラと誰でも共感できる人間関係としっかりした物語によって矢沢氏の作品は忘れられない作品と化する。

 70年代は少女マンガの黄金時代で今はそのジャンルは衰退していると言われるが、矢沢氏の作品を読むとあの時代の大家を思い出す。ひとりよがりの自称「実験的マンガ」ではなく、大衆受けする、しかしながら斬新で深みのある作品を作る矢沢氏は、マンネリ化した少女マンガ界に良い刺激を与えてくれている。


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マット・ソーン ()
文化人類学者
京都精華大学マンガ学科准教授