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『週刊読書人』連載のコミック批評〜2002年9月

短編マンガの道
吉野朔実『栗林かなえの犯罪』

Image from Kuribayashi Kanae no hanzai 吉野朔実氏は短編の道を極めようとしているマンガ家の一人である。『少年は荒野をめざす』などの長編も描いているが、短編が多くて、『ECCENTRICS』など一見長編に見えても実は短編シリーズだという作品もある。『栗林かなえの犯罪』(小学館・五〇五円)は、二〇〇〇〜二〇〇一年に「プチ・フラワー」に搭載された四つの短編を集めたものだが、そこで吉野氏は生と死、愛や人間関係などの普遍的な材料を”朔実流”に取り上げる。口が利かない謎の美女に恋するサラリーマン、別れ話をする夫婦、落とし物の携帯を拾う少女、帽子職人を目指す家出の少女…設定はいろいろだが、クラシック音楽を愛する吉野氏はどの作品にも気持の良いリズムを与えている。単純な恋愛とハッピーエンドを求める読者より、ちょっとインテリな読者に人気がある。

 日本には吉野氏のように短編マンガが描ける作者が少ないように思う。新人は短編ばっかりを描かせられるが、それは短編というより、ありがちな少年マンガや少女マンガをただ単に短くしているだけのものが多い。本当の短編は長編と全く異なっていて、無駄なく読者に「ふ〜む。なるほど!」と、考えさせたり驚かせたりするものである。日本の長編マンガは、キャラクターや設定やプロットをうまく工夫してあるものが多いが、短編の場合はそれらの要素より何より、「アイデア」が命だと言える。しかも、長編と違ってごまかしや時間稼ぎがきかないため、いい加減に描いたらすぐばれる。もっとも、”オール読み切り”の読み捨て雑誌を別として、ほとんどのマンガ雑誌は部数を上げるために長編中心になる傾向があるので、マンガ家はある程度売れるようになったら短編をたまにしか描かなくなる。また、作者が描きたくても、読みごたえのある短編の発表の場も限られている。吉野氏のような作者がより多くの人に読まれるように、現在のマンガ業界にない新たな発表の場が表れることを期待したいと思う。


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マット・ソーン ()
文化人類学者
京都精華大学マンガ学科准教授