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『週刊読書人』連載のコミック批評〜2002年12月

実際にこんなのがあればいいのにね
一條裕子『必ずお読み下さい』

Image from Kanarazu oyomi kudasai この本にはこのタイトルしかなかった。何しろ、「取り扱い説明書によくあるワケの分からない日本語」というモチーフを徹底的に(というかしつこく?)追及した六頁マンガを三十話(ではなく三十項目)も収録した本だからね。あなたにも経験があるはずだ。変な注意書きや説明書を読んで、変な連想してしまう。一條裕子氏の『必ずお読み下さい』(マガジンハウス・九八〇円)はそのノリ。それだけなんだけど。いや、バカと言えばバカだよ。むしろ、バカであると、開き直りたくなる。

 ん〜、しかし、「バカ」と片付けられないのが、一條氏である。「密閉して冷暗所に保管してください」なんか鳥肌が立つぐらいだし、「充電しないでください」なんか切ないし、「乱丁・落丁本はお取り替えいたします」なんかなぜかジーンと来りする。何なんだろう、これは。もしかして、深い?人生の根本的な疑問を探ったりしている?いや、でも、やはりバカだよ。バカなのに、このバカさ加減にこの芸術的レベルの高さは何なんだ。ただのナンセンスギャグマンガなら何もここまで上手く描かなくていいはずだ。『わさび』(一九九四〜一九九七年)などで注目されるようになった一條氏の絵や技法は見る見るうちに進化し、素晴らしくデザイン化されたものになってきた。(作者はもともとグラフィック・デザイン科卒業だから当然かもしれないが。)僕はこの欄で真面目なものばっかりを取り上げている割にギャグマンガも好きだけど、絵に見とれて呆然と眺めて楽しむギャグマンガは他にない気がする。

 所詮バカだけど。「本品は食用です。ほかの目的では絶対に使用しないでください」と書かれたナスとキュウリを入手して、「果たして『キュウリの馬』や『ナスの牛』に乗ったご先祖様の身にいったい何が−−!?」と思い色々と変な想像をする主婦なんか、かなりバカだ。

 まあ、とにかく、必ずお読み下さい。


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マット・ソーン ()
文化人類学者
京都精華大学マンガ学科准教授